スギヤマ薬品の薬剤師

 杉山貴紀は何故過労死
したのか?

 

 

平成20年3月5日控訴人(スギヤマ薬品)提出準備書面(2)

 

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○平成20年3月5日提出  控訴人(スギヤマ薬品)提出 準備書面(2)

 

 

以下、控訴審第1回口頭弁論日(平成20年3月19日)の前に控訴人(スギヤマ薬品)から提出された、控訴審・準備書面(2)を公開します。

3月17日提出母の反論陳述書

※第1回口頭弁論についてはこちらをご覧下さい。
 

※伏字等ご了承下さい。


 

控訴人 株式会社スギヤマ薬品
被控訴人 杉山正章 外1名
控訴審・準備書面2


平成20年3月5日
 

名古屋高等裁判所民事2部 御中

 

控訴人訴訟代理人弁護士        ●

      同    弁護士        江坂 正光

      同    弁護士        服部 千鶴


第1.貴紀の控訴人永覚店における過重な勤務状況なる主張は事実の歪曲であること

1.貴紀が控訴人永覚店に勤務中、決して過重な勤務状況でなかったことは、既に原審における最終準備書面及び当審における控訴理由書中にて詳述したとおりである。被控訴人らが本件の如き裁判に先立って為した豊田労働基準監督署に対する労災認定申立に対し、豊田労働基準監督署が貴紀の死について、これを労災であると認定したこと(以下、本件労災認定という)が誤りであることについても、原審における準備書面14及び最終準備書面において詳細に述べたとおりである。
しかして、被控訴人らが労働基準監督署に提出した嘆願書の類が事実に反する内容を多く含んでおり、このような嘆願書の内容を遺族の言として事実の認定の基礎にしている本件労災認定に問題があることも、原審における準備書面14第3項において既に指摘したとおりである。
これまでの準備書面において詳細に述べたとおり、貴紀の平成13年5月8日から同年6月6日までの残業時間は59時間を越えることはない。
また、貴紀は昼の休憩時間は、適切に1時間は取れていた。貴紀が亡くなった後に、永覚店における管理薬剤師であり、かつ同店唯一の常駐薬剤師であったKmの証言によっても、貴紀が出勤日には昼に1時間の休憩が取れていた旨を述べていることが、その重要証拠の一つである(原審におけるKm調書10頁)。

2.これに対し被控訴人らは、当時の控訴人永覚店のパート、アルバイトの女性らとの会話録音反訳書等を書証として提出した(甲A第34号証の1ないし4)。
しかしながら、かかる録音反訳自体が不正確であるのみならず、内容が改ざんされた部分すら存在することが控訴人の依頼した録音鑑定に関する専門家の鑑定によって明らかとなっている(乙第42号証)。その詳細については、原審準備書面15、同16、同17にて記載したとおりである。
この一事によっても被控訴人らは不正な証拠によって、労働基準監督署のみならず、裁判所による正しい事実認定をも誤まらせんとしていることが看て取れるのである。

第2.被控訴人杉山ふじ江の供述の信用性が無いこと

1.原判決は、その事実認定を為すにあたり、被控訴人杉山ふじ江(以下、被控訴人ふじ江という)の供述結果をも、証拠として採用した。
 しかしながら、被控訴人ふじ江の原審における供述は、以下に述べる通り、到底、信用するに足りないものである。
 即ち、被控訴人ふじ江は、その供述において、(1)「お盆過ぎだと思いますけども、帰ってきて、靴がぼろぼろなっちゃうということを言いましたので…」(同人調書2頁8行目)、(2)「店の中を走って仕事をしているって言いました」(同調書2頁14行目)、(3)「すごいやせたねって私は言いました。そうしたら、10キロ以上やせたかなと言うもんですから、もうそれ以上やせないようにしないと、会社辞めた方がいいんじゃないのって言いましたら…」(同調書4頁末尾より10行目)(4)「(貴紀は)すごい足をしていまして、指と指の間に豆が出て、その指の上にも豆が出て、それが最近出たものじゃないように感じました。特に指が変形してましたし、…私その時ベッドの下で泣き崩れていました」(同調書4頁末尾行ないし5頁4行目)、(5)「そのときに目をつむって寝ていましたけれども、ほおがこけていまして、顔色がすごく悪かったです。」(同調書5頁6行目以下)等々、貴紀が被控訴人ら宅に帰った折りの状況について述べた。
しかしながら、かかる被控訴人ふじ江の供述は、多分に同人の誇張癖、事実歪曲癖を原因として為されたものである。
このことは、次項以下に述べる事実によって、端的に裏付けられる。

2(1)乙第70号証は、被控訴人らが開設しているインターネットホームページの「平成20年1月22日進行協議」に関する部分である。当該部分に被控訴人ふじ江の「進行協議を終え、ひとこと」と題する文章が掲載されている。

(2)当該インターネットホームページによれば、控訴人代理人●が被控訴人杉山正章からの「遺品はいつ返していただけるんですか?」と聞かれたのに対し、「威圧的な言葉」を吐いたとか「前にあったのと今あるのでは違う!」と「大声」を発したとか「私共に罵声をあぴせ」た等の記載が為されている。これら記載は、いずれも事実を歪曲・誇張したものである。上記のやり取りは、いずれも名古屋高等裁判所の法廷内にて為されたものであり、その場には、●以外の控訴人代理人並びに被控訴人ら代理人も立ち会っていたものである。したがって、控訴人代理人●が、被控訴人杉山正章の上記質問に対し、何ら威圧的な言葉や大声で声を発する必要は、全く無い場所であったとの一事をもってしても、上記記載の歪曲・誇張は明らかである。

(3)しかして、控訴人代理人●は、被控訴人杉山正章の質問に対しては、「その件については、既に回答済みです。」と答えた。これに対し、被控訴人杉山正章と被控訴人ふじ江とは、「遺品があったとEが法廷で言ったじゃないですか。」と反論した。そこで、控訴人代理人●は、「貴紀氏の死亡の直後に(遺品が)あったということと、今でもそれが残っているか否かということとは、別です。そのことは、既に、私が責任を持って、会社に調査させて、回答した通りです。」と、反駁したものである。

(4)これに対し、被控訴人ふじ江は、「じゃあ、無いって事ですか?」「捨てたんですか?」「判決の日、(控訴人本社における被控訴人ら及び被控訴人ら代理人水野弁護士と控訴人関係者らとの、判決言い渡し後における会談において、控訴人の)重役が『Tシヤツでしょ』と言ったじゃないですか、あったんじゃないんですか?」と述べた。
これに対し、控訴人●は、その場におられた被控訴人ら代理人弁護士に対し、「先生方で、(被控訴人ら)本人(のかかる感情的な発言)を、抑えて下さい。」と要請した。
また、「失礼なことを言わないで下さい。言葉を慎んで下さい。」との要請もした。
これに対し、さらに被控訴人杉山正章は、「(遺品を)探されないのであれば、直接、(永覚店の)店長の所へ会いに行きます。」等の発言をした。そもそも、控訴人、被控訴人双方には、それぞれ代理人弁護士が委任されているのであり、かかる場合、両当事者間の申し入れは、代理人弁護士を通じて為すべきがルールである。にも拘らず、被控訴人杉山正章がかかるルールを無視して、上記の発言をしたのに対し、控訴人代理人●は、「そのようなことは代理人を通じて、為して下さい。」と述べた。それでもなお、被控訴人杉山正章は、同様の発言を繰返した。
これに対し、控訴人代理人●は被控訴人代理人弁護土らに対し、「依頼者の(ルール違反の)発言を抑えて下さい。」と申しあげた。

(5)乙第72号証は、平成18年6月16日及び同年4月26日の原審口頭弁論についての、被控訴人ふじ江の報告書が掲載されたインターネットホームページである。当該ホームページの4月26日の口頭弁論に関する報告の中にも、
事実の歪曲・誇張を為した記載がある。即ち、「被告(控訴人)会社側弁護士(●)は、5月に海外出張があるらしく、(準備書面の)提出までにまだまだ時間がかかるとの事でした。この発言に対し、傍聴席からブーイングの嵐が。そして、それに対して、被告(控訴人)側弁護土(●)が本気でキレてしまい、大人げなく声を荒げるという一幕もありました。」との記載は、●が、傍聴席の席からの法廷の秩序を乱す発言に対し、冷静にたしなめた事実を、不当にも、歪曲・誇張したものである。
ちなみに、前記乙第70号証においても、当該事実につき、「今までの裁判でも、傍聴席に向って意味不明な暴言を吐いたことがありました。」との記載を為している。

(6)上記の如き被控訴人ふじ江の各記述は、当該文章が、不特定多数の人々に対する広報ないしデマゴーグの目的で作成されたものであるとの事実を考慮したとしても、その表現は、多分に同人の虚言癖・誇張癖を反映したものであること疑いを容れないのであると共に、原審における同人の供述もまた、かかる癖によって為されたものであることの証左となるものである。


第3.原判決の認定する貴紀の永覚店における勤務状況に関する事実誤認
   (ドラッグストアの運営体制に関する認識不足)

1.原判決においては、控訴人の永覚店を合むドラッグストア店舗の運営体制の現実を無視し、貴紀の勤務状況について、何らの客観的な証拠もないまま事実に反する認定を行なっている。
控訴人ドラッグストア店舗における業務の内容については、控訴人準備書面9第1項2(8頁以下)で述べたとおりである。

(1)原判決は、22頁4行目以下、貴紀が平成12年8月末以降、医薬品、健康食品及び医療雑品の商品管理並びに接客の責任者として稼動しており、「商品の管理としては、商品の発注、毎週水曜日と金曜日に納品される商品の荷受け、在庫の管理、品出し、前出しの業務があり、その中にはダンボールに入った20kgほどの重さのある商品の運搬等の肉体労働もあった」と認定している。
貴紀は、担当する部門の商品管理の責任者であり、原判決の認定している商品の発注、納品の荷受、品出し、前出しなどの業務を担当実行しているものではない。これら業務の実行者は、担当パートである。貴紀がこれらの作業を行うことがあっても、あくまで補助である(原審における証人Km調言5頁末尾より11行目以下、同証人K調書5頁17行目以下、乙第16号証Se陳述書14項、乙第17号証Tc陳述書2頁第10項、乙第18号証Sk陳述書1頁第4項(2)、乙第19号証IIm陳述書2頁第7項、第8項乙第20号証Fa陳述書1頁第5項、乙第21号証E陳述言7頁(19)、8頁(23)、10頁(28)等)乙第23号証Hy陳述書3頁末尾より10行目、乙第26号証Fs陳述書1頁第8項)。
また、重量が20kgもあるダンボールに入った商品など存在しない。ダンボール入のティシュペーパーなどでもせいぜい15kg前後である(乙第74号証ないし乙第76号証参照)。これらの運搬も女性のパートが台車を使用して十分こなしている。訴外Tの陳述書では、「ティッシュなどは20kg〜30kgくらいの重量」になると述べられており、原判決は客観的な考察もせずに、Tの陳述をそのまま鵜呑みにしているものである。この点については既に控訴人の控訴理由書21頁(1)で述べたところである。

(2)被控訴人らは、貴紀と同期入社のNのホームページ(甲A第67号証、甲A第12号証)を引用し、あたかも貴紀もまた、控訴人永覚店において終日に亘る激しい肉体労働を行なっていたかのように主張する。しかし、Nのホームページの内容については乙第73号証(N陳述書)3頁第6項でN自身が述べているがごとく、「自分の自己満足・ストレス解消のために作ったもの」であり、「ですから、『大変』自慢、『忙しい』自慢的なところがあり、多少大げさに書いたところがあ」るものである。従って、当該ホームページの記載内容から、貴紀の控訴人永覚店における業務内容が肉体的・精神的負担の人きいものであったとは到底いえないのである。貴紀が激しい肉体労働を行っていた事実がないことは、上記(1)に述べたとおりである。
被控訴人らが引用する上記甲A第67号証の平成12年4月12日の日記は、Nが控訴人に入社後初めて体験した納品日についての記載であり、新入社員という立場での、初めての体験であるが故に、いかにも多忙に感じてしまっただけのことである(乙第73号証(3))。しかもNが勤務した控訴人Nk店は、控訴人の数多くのドラッグストアの中でも、トップクラスの売上のある店舗であった(乙第77号証、乙第78号証)。かかる繁忙な店舗における納品日の状況の記載から、控訴人永覚店における納品日の様子を推測することは誤りであること明らかである。
同じく被控訴人らが引用する平成12年4月14日の日記は、一日中肉体労働していたわけではないのに、大げさに記載がされている(乙第73号証(4))。この日の記載も、Nk店で勤務を初めて5日目でしかなく、環境にも仕事に全く慣れていない故に、いかにも体がつらいかのように感じたにすぎない。新入社員であれば珍しくないことである。これをもって肉体労働で過労死寸前の状態にあったとする被控訴人らの主張は、事実誤認も甚だしい。
同じく控訴人らが引用する平成12年5月8日の日記も、仕事に不慣れである故に、またNが痩せていたということもあって大変と感じただけのことである(乙第73号証(8))。
被控訴人らが引用した箇所は、いずれも、Nが控訴人に入社して間もない時期の日記である。この時期は、不慣れで神経も使い、仕事の効率も悪く、しかも、仕事内容が大袈裟に書かれていることは、N自身が陳述書(乙第73号証)で認めているところである。被控訴人らは“肉体労働”の箇所だけを引用するが、Nの日記には、休日にドライブで遠出をしたり、友人と会ったなどの記載が多く(特に6月以降の日記は殆ど休日に遊んだという記載である)、これはN自身の陳述書の記載内容を裏付けている。勿論、被控訴人主張にかかる、「肉体労働で過労死寸前との悲痛な訴え」などでは全くない。
Nの日記の内容から貴紀の業務の負荷が強かったと推測することは誤りである。

(3)原判決は、22頁11行目以下、貴紀は「パートやアルバイトがレジに従事しているときなどには、商品の補充をしたり、問屋から送られてくる商品の納品荷受作業などに従事し」たと認定している。
しかし、永覚店においては、毎日、必ずレジ担当のパートと商品担当のパートが配置されており、レジにパートが入っているからといって、貴紀が商品の補充及び納品荷受作業に従事しなければならないという状況はあり得ない。控訴人ドラッグストアにおいては業務分担の区分が行われ、これに応じてパート・アルバイトが配置されるようにローテーションが組まれているのであり、原判決における控訴人ドラッグストアの業務に対する認識不足が顕著に現れている。
また、納品荷受作業の行われる日には、特に荷受作業を行うためのパート及びアルバイトが配置されており、貴紀が作業を実行する必要のない体制が整えられていた(前記(1)にて引用した各証拠並びに乙第30号証参照)。この点についても控訴人の控訴理由書22頁(2)において述べたところである。
原判決は、20項末尾より5行目以下において「20人前後のパートやアルバイトが勤務し、そのほとんどは女性であった。」と述べており、永覚店の従業員に女性が多かったことを殊更強調しているが、上記のとおり、永覚店における仕事は、肉体労働を要するそれの場合においても女性パート、アルバイトでも十分にこなすことのできるものであったのであって、やはり控訴人ドラッグストアの業務に対する認識不足がうかがわれる。

(4)原判決は、22頁下から5行目以下、貴紀は「営業時間終了後も、POP作成などの販売促進のための作業を行ったり、商品の発注、陳列、補充作業等を行なっていた。」と認定している。
しかしながら、商品の発注、陳列、補充作業等の実行は、各担当パートが行うものであり、営業時間内に終了するものである(前記(1)にて引用した各証拠参照)。貴紀が営業時間終了後に、これら「商品の発注、陳列及び補充作業」を行なっていたという証拠は何も存在しない。なお、発注作業については発注を行うべき日(月、水)と時間帯(午前10時から午後9時まで)が決められており、決められた当日の営業時間内に行わなければ、当日の発注とはならず、翌日に行っても同じことであるため、敢えて営業時間終了後に行う必要もない作業である。たとえば、月曜の午後9時過ぎに発注した場合、当該発注は水曜に発注した扱いとされてしまう。従って、午後9時過ぎに発注するべく残業する必要性は無いのである(乙第22号証K陳述書4頁(3)、乙第25号証Ks陳述書7頁(2))。
被控訴人ら自身、貴紀が営業時間終了後に店舗内でどのような仕事をしていたのか貴紀からも聞いてすらいない。 POPの作成についても、営業時間内に十分行うことができたものであるし、営業時間終了後については、せいぜい雑談をしながら行っていた程度であり、それも毎日のことではない(原審における証人Km調書5頁末尾より6行目以下、同証人K調書13頁末尾より14行目以下、同16頁1行目以下、乙第16号証Se陳述書14項、乙第T17号証Tc陳述書2頁第10項、3頁15項、乙第20号証Fa陳述書1頁第5項、第6項、第8項、乙第21号証E陳述害T13頁(35)、20頁(43)、25頁(51)、26頁(52)、30頁(55)、32頁(56)、37頁(60)、42頁(65)、45頁(68)、46頁(68)(69)、47頁(70)等)、乙第26号証Ys陳述書1頁第8項、第11項)。
この点についても控訴人控訴理由書22頁(3)で述べたところである。

(5)原判決は、22頁下から4頁以下で、貴紀が「営業時間終了後に被告(控訴人)が指定する重点医薬品及び化粧品等の勉強会に参加することもあった」と認定をしている。しかしながら、営業時間後に控訴人が主催する勉強会は行われていない。かような勉強会は、ブロック長、店長などが任意に開催することもあるが、任意の勉強会の対象単位はブロック毎であるところ、当時、永覚店の属するブロックでは勉強会は行われていない。メーカー側の行う勉強会もあるが、これは営業時間内に行われている(乙第63号証Hy陳述書1頁第4項)。
そもそも、原判決が控訴人らも主張していない「勉強会への参加」という事実を認定していること自体が不可解であるし、また、かような認定は、原判決が行なった貴紀の勤務時間の認定とも矛盾するものである。すなわち、原判決は、貴紀が出勤したと認定した日における永覚店のセコムの施錠時刻をもって貴紀の終業時刻であるというそれ自体明らかに不合理な認定を行なっているところ、この認定は貴紀が同人の出勤日にはセコムの施錠時刻まで永覚店内に居たということが前提となっており、店舗外の勉強会に参加したという認定とは明らかに矛盾するものである。
この点も、控訴理由書22頁末尾より4行目以下で述べたとおりであり、信用に足らない証人Mの証言等を編重し、誤った認定をしているものである。

(6)原判決は、23頁3行目以下で、貴紀が「管理薬剤師となった平成12年10月16日以降、医薬品の使用上の注意に関する資料を作って、店内での勉強会を開催し」たと認定しているが、永覚店において店内の勉強会が行われた事実はない(乙第63号証Hy陳述書1頁第4項)。
貴紀が「勉強会」を開催したという事実も、被控訴人らは主張もしてない。
この点も、控訴人理由書23頁(2)で既に述べたところである。

(7)原判決は、23頁12行目以下、「永覚店の店長代行がIからKに代わったころから、平日に休みがとれなくなり、また、おおむね全体の5分の3が通し勤務となった。」と認定しているが、永覚店に勤務する薬剤師が一人となったことから、ローテーションを組むときに通し勤務予定とすることが多くなっただけであり、これは実際の勤務状況を反映するものではない。貴紀は、実際に平日休みを取ることもあった(原審における控訴人の最終準備書面12頁以下参照)。この事実については、当審において、証人E、同K及び同Kmを改めて尋問することにより、さらに明確に裏付けられるところである。

(8)原判決は、23頁14行目以下、店長代行がIからKに代わってから「Kは営業時間終了後も残って仕事をすることが多かったため、貴紀もこれに付き合う形で、POP製作等の作業をするなどして残業を行い、帰宅時間が遅くなった」と認定している。しかしながら、そもそも貴紀はKあるいはEと共に、セコムの施錠時間まで永覚店に居残っていた事実は、豪もないのである。この点において、原判決は、重大な事実誤認を犯しているのである。
平成13年4月度、5月度のセコムの施錠時間「乙13の11、12)を見てみると、3月19日が翌日の3時14分、3月23日が翌日の1時46分、3月26日が翌日の3時27分、4月1日が翌日の1時52分、4月16日が翌日の1時7分、4月30日が翌日の2時48分となっている。これらの日はいずれも貴紀とKが出勤しており、店長のEは休みを取っている。これはKが、店長代行として永覚店に残って仕事をするとともに、一人で残って食事を取ったり、仮眠を取ったりしており、極端に退店時間が遅くなったときである(乙第34号証)。貴紀の自宅及び同人が頻繁に通っていたTの自宅はいずれも、永覚店からは1時間程度の距離にあり、仮に、貴紀がこのKの行動に付き合っていたとすれば、貴紀の帰宅時間は、午前3時や明け方近くになってしまう。
貴紀がこのような極端に遅い時間に帰宅したことについては、被控訴人側において具体的な主張はなく、被控訴人側提出の証拠の中にもこれを裏付ける証拠は全くない。

(9)原判決は、23頁末尾以下「平成13年5月8日から同月13日まで、永覚店では、特売が実施され、同月10日には、スタンプ2倍セールの実施が重なったこともあって、のべ8 1 2人もの客が来店するなどし、多忙であった」と認定している。
 しかし、まず、5月13日は貴紀は休みを取っており、この認定は大きな誤りがある。さらに、原判決は、上記特売期間中の永覚店の来客数について5月10日の「のべ812人」のみを強調しているが、この特売期間中の他の日の永覚店の来客数は、5月8日「404人」、同月9日「411人」、同月11日「361人」同月12日「416人」、同月13日「541人」である(乙第3工号証)。ところで、来客数と永覚店の忙しさについては、証人Kは「永覚店のお店の規模からしますと、何人ぐらいのお客さんが入ることをもって忙しいというふうにあなたは感じましたか」という裁判官からの質問に対して「1日当たりですと700人とか800人、700人くらいだと思います」と証言している(証人K調書35頁3行目以下)。忙しいかどうかという感覚については個人差があると考えられるが、店長代理として貴紀よりも多くの業務をこなしているKが忙しいと感じるのが「700人から800人」を超える場合であり、主に医薬品の接客業務を行なっていた貴紀からすれば当該人数の来客があったとしても忙しいと感じるほどではなかったと考えられる。
いずれにせよ、原判決の「平成13年5月8日から同月13日まで・・・・多忙であった」との認定は、殊更、期間中の1日のみの「のべ人数」を挙げて6日間全体をして多忙であったとするものであり、全く合理性を欠くものである。控訴人において繰り返し述べてきたとおり、永覚店は暇な店であった(原審控訴人準備書面9第1項1(1頁以下)、証人Km調書5頁末尾より7行目以下、11頁末尾より8行目以下、乙第79号証ないし乙第87号証)。

(10)原判決は、33頁2行目から「当時、店舗を施錠して帰宅する際は一人で行わず、複数の者が残って一緒に帰宅するようにとの指示が被告(控訴人)からされていた」と認定しているが、これも繰り返し述べているように事実に反する。
また、原判決は、控訴人の「Kが、勤務終了後、永覚店内に一人で残って食事をしたり、仮眠をしたりすることが度々あった」との主張を排斥している。
この点、証人Kは自己にとってあまり好ましくない事柄を敢えて述べており(証人K調書16頁末尾より10行目以下、乙第66号証1頁目6項)、その証言には信憑性がある。
前記(7)でも述べたとおり、被控訴人側からは極端にセコムの施錠時刻が遅くなったとき(仮に、同時刻まで貴紀が永覚店内にいたとすれば、帰宅時間が明け方近くになる)に関しては、何らの主張もされておらず、原判決においては十分な検討を行っていない。

(11)原判決は33頁末尾より11行目以下で「貴紀には、所定労働時間後にも行うべき業務があり、また、貴紀の仕事に対する姿勢から、EやKが残業している場合に、これを手伝ったり、又はその必要が生じる場合に備えて待機するべく居残ったものと認めるのが相当である」と認定している。しかし、貴紀が所定労働時間後に行うべき自らの業務は存在せず、また、貴紀が恒常的に所定労働時間後にEやKの仕事を手伝ったなどという証拠も何ら存しない。
貴紀が所定労働時間後にEやKの仕事を手伝った場合については、控訴人側から主張しているとおりであり、それ以外に貴紀が所定労働時間後に自らの業務や手伝いを行なった事実はない。

(12)原判決は34頁末尾より6行目で「薬品に関する接客業務には薬剤師が対応しなければならない」としたうえで、貴紀の勤務状況に関する事実認定をしている。しかし、これは法令の規定を形式どおり適用して事実認定を行っているだけであり、控訴人における運用等を全く理解していない。永覚店における勤務状況並びに薬剤師の配置に関する控訴人の運用実態については、原審控訴人準備書面8の第1.2(6頁末尾より8行目以下)で述べたとおりである。
また、34頁末尾より2行目以下に「貴紀の死後、管理薬剤師となったKmは通し勤務が多かった」と述べているが、ローテーション上「通し勤務」であるとしても、必ず「通し」で勤務していたわけではない。Kmが「通し勤務」が多かったというのは、「通し勤務」でローテーションを組まれることが多かったという意昧であり、実際に通しで勤務したという意味ではない(乙第65号証9項(2頁末尾より11行目以下)、10項(3行目12行目以下、証人Km調書4頁2行目以下)。

(13)原判決は32頁11行目より「イ 始業時間」として、「永覚店では、通常、午前9時50分から朝礼が行われ、貴紀は早番及び通し勤務の際、これに参加した。したがって、貴紀が早番勤務又は通し勤務を行った日については、10分間の前残業があったと認めるのが相当である。」と認定し、自ら貴紀が早番勤務又は通し勤務であったと認定した日について、10分間の前残業時間を加算している(原判決別紙3勤務時間等表)。
しかし、永覚店における朝礼は、午前10時からの勤務開始に合わせて行われているだけであり、必ず、午前9時50分に朝礼が行われていたわけではない。
この点に関しては、労働基準監督署さえも前残業は認めておらず、被控訴人らさえもこの10分間を残業時間に加算すべきであるという主張は行っていない(被控訴人ら原審最終準備書面41頁7行目以降)。
原判決は、前述した夜間の勉強会への出席の事実と同様、被控訴人らが主張さえもしておらず、何らの証拠もない事実を認定しているのであり、ここからも貴紀の労働時間を増やそうとする原判決の恣意的な態度がうかがわれるものである。

 

 

 

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